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 眠りの狭間
2011.11.09(Wed)
彼女の肩にもたれていると見えるものはすべて悲しかった。
愛しくもありつつも、どうしても僕には、全てが温かすぎて彼女の洋服のレースを見ただけでも悲しくて
涙した。

ある日、彼女が「私が眠りたい。」と僕に申し出た。
僕は駅の地下にある広い通路を一部貸し切り、大きなベットを購入した。
彼女をそこで眠らせるために。
通路は石造り、壁面にはガラス張りの大きなケースがあり、色んな企業広告やオブジェ、
誰が描いたのか分からない絵画が展示されていた。
そこは駅から街頭に通じる通路であったが、昼間でも人通りが少なかった。
彼女は喜び、そこで眠った。
彼女はどんなに時間が経とうとも起きなかった。
美しい彼女の瞼は開くと、どんな顔をしているのか。そしてどんな色をした瞳でこちらを見るのか、
知っている僕でさえ、それを想像にかけてしまうくらい彼女はこちらを不思議な気持ちにさせた。
時たま彼女のその色の白さから、死んでいるのかと驚いた通行人が話しかけたが彼女は起きなかった。
しかし、彼女は死んでいるわけではない。
彼女は望んでそうしていた。
彼女は半年以上それを続けた。
僕は本来この行為を人ではなく、人の姿に見える何かで行おうとしたが、
彼女はそれを自分がやりたいと申し出たのだ。
ある日、ベットをホームに続く階段に移した。
彼女の眠るベットをよけて人が上へ下へと降りて行く。
彼女は人から感じる全てを受け止めた。
言葉、肌で感じる靴音、人の匂い、眼
大半が彼女に驚く声や罵倒のような視線だった。
しかし、彼女は何があろうと、―それが昼であろうと夜中であろうと―決して起きなかった。
三か月を過ぎた日の事、彼女の眠る近くに花が置かれていた。
綺麗な花束だが、どこか悲しい花束だった。
しかしあくる日、彼女の眠るベットに天蓋が付けられていた。
色は薄いサーモンピンク。レースの端には宝石のような石がついていた。
どうみても死人へではなく、生きている人間への贈り物だった。
彼女はある人からみれば死人の姿であり、または逆に生きながら眠るどこかの物語の主人公のような存在だった。
月日が流れたある日、線路と線路の間に眠る彼女は眼を覚ました。
それが彼女の初の目覚めだった。
彼女の周りには沢山の贈り物が足の踏み場もないくらいにあった。
それらは新品から長年使い古されたようなものまであり、ぬいぐるみに分厚い本、蓋の開いたジュース、古い指輪にしるしのついた地図、ワンピースに綺麗な靴、無数のアロマキャンドルに落ちかけた線香。
生きている黄緑色のインコに段ボールに小さな花束と一緒に入った犬の死骸。中には新品の車も前頭部分が大破したバイクもあった。
彼女はベットから真っ白い足を降ろし、近くにあった靴を履いた。
彼女は自らが狭間に立った事に気付いた。
そして彼女はベットから去った。
僕の前からも。

彼女の居なくなった日、その場所には沢山の人が集まっていた。
死んだ者へ思いを馳せる者も、生きる者へ思いを贈る者も。
皆、眼をつむり彼女の寝顔を思い出していた。
取り囲む物たちに同化していくベットを見ながら。
どちらにも寄り添う彼女の肩に瞳を寄せて。
// 23:34 // 今日の出来事 // Comment(0)
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